- 5G/4G/LTEについて多数の3GPP TSがあるけど、個々の3GPP TSの位置づけがよく分からない。
- 5G/4G/LTEの特許発明が3GPP TSに記載されているかを調べたいのだけど、どの3GPP TSを確認すればよいのか見当もつかない。
- 個々の3GPP TSには番号が付いているけど、この番号ってどのように付けられているんだろう…
知財担当者として5G/4G/LTEを担当することになると、3GPPの技術仕様である3GPP TS (Technical Specification)に触れる機会が多くなります。
しかし、3GPPでは多数の3GPP TSが作成されているため、慣れないうちは個々の3GPP TSがどのような位置づけのものなのかを判断することは困難です。
私自身も、10年以上にわたって移動体通信特許の権利化や係争の支援に携わってきましたが、最初のうちは3GPP TSの全体像を把握できておらず、手探りの状態でした。
そこで、この記事では、3GPP TSの全体像を大まかに説明します。
この記事を読めば、3GPP TSの全体像を概ね把握し、個々の3GPP TSの位置づけをある程度判断できるようになります。
なお、前提知識として3GPPの概要(組織の位置づけ、アウトプット、組織編制およびプロセス)を知りたいという方は、以下の第1回の記事をまず読んでみてください。

3GPP Technical Specification (TS)
3GPPでは、多数の3GPP Technical Specification (TS)が作成されており、個々の3GPP TSには、以下に例示するような番号が付されています。

このように、各3GPP TSは、TS番号とバージョンにより識別されます。上述の例では、『38.300』がTS番号で、『V15.4.0』がバージョンです。
TS番号は、その3GPP TSが含まれるSeriesの番号と、Series内でのその3GPP TSの番号を含みます。上述の例では、『38』がSeriesの番号で、『300』がSeries内での3GPP TSの番号です。
このようなTS番号からも分かるように、3GPP TSは、Seriesと呼ばれるTSのグループにより分類されています。
一方、バージョンは、Releaseと、Release内でのバージョンを含みます。上述の例では、『15』がReleaseであり、『4.0』がそのRelease内でのバージョンです。
このようなバージョンからも分かるように、3GPP TSは、Releaseという大きい単位で更新されつつ、Release内で継続的に更新されます。
3GPP TSのSeries

上述したように、3GPP TSは、Seriesと呼ばれるTSのグループに分類されています。
具体的には、第3世代(3G)以降の技術について以下のような21~38の番号が付されたSeriesが存在しています。
| Series | Subject | 
| 21 Series | Requirements | 
| 22 Series | Service aspects (“stage 1”) | 
| 23 Series | Technical realization (“stage 2”) | 
| 24 Series | Signalling protocols (“stage 3”) – user equipment to network | 
| 25 Series | Radio aspects | 
| 26 Series | CODECs | 
| 27 Series | Data | 
| 28 Series | Signalling protocols (“stage 3”) -(RSS-CN) and OAM&P and Charging (overflow from 32.- range) | 
| 29 Series | Signalling protocols (“stage 3”) – intra-fixed-network | 
| 30 Series | Programme management | 
| 31 Series | Subscriber Identity Module (SIM / USIM), IC Cards. Test specs. | 
| 32 Series | OAM&P and Charging | 
| 33 Series | Security aspects | 
| 34 Series | UE and (U)SIM test specifications | 
| 35 Series | Security algorithms | 
| 36 Series | LTE (Evolved UTRA), LTE-Advanced, LTE-Advanced Pro radio technology | 
| 37 Series | Multiple radio access technology aspects | 
| 38 Series | Radio technology beyond LTE | 
ただ、このようにSeriesの一覧を見せられたとしても何も頭に入って来ないと思いますので、以下では、3GPP TS Seriesの全体像が少しでもつかめるように3GPP TS Seriesを整理してみます。
なお、下記の記事で説明した移動体通信システムの全体像が前提となっていますので、詳しく知りたい方は読んでみてください。

Stage 1, Stage 2, Stage 3
第1回の記事でも説明したように、3GPPの各Releaseは、サービス要件を検討するStage 1、システムのアーキテクチャや機能を検討するStage 2、および、実装のための詳細を検討するStage 3という3つのStageで進められます。

22 Seriesは、サービス要件を検討するStage 1に主に対応する3GPP TSのSeriesです。
23 Seriesは、システムのアーキテクチャや機能を検討するStage 2に主に対応する3GPP TSのSeriesです。
24 Series, 29 Seriesや25 Series, 36 Series, 37 Series, 38 Seriesは、実装のための詳細を検討するStage 3に主に対応する3GPP TSのSeriesです。

24 Series, 29 Seriesは、以下のとおりCN (Core Network)に関するシグナリングプロトコルについてのTSのSeriesです。
- 24 Series: UEとCNの間でのシグナリングのプロトコルについてのSeries
- 29 Series: CN内でのシグナリングのプロトコルについてのSeries
一方、25 Series, 36 Series, 37 Series, 38 Seriesは、以下のとおりRAN (Radio Access Network)についてのTSのSeriesです。
- 25 Series: 3GのRAN(UTRAN)についてのSeries
- 36 Series: 4G/LTEのRAN(E-UTRAN)についてのSeries
- 38 Series: 5G/NRのRAN(NG-RAN)についてのSeries
- 37 Series: 複数のRAT (Radio Access Technology)の組合せについてのSeries
 (複数のRAT=3G、4G/LTE、5G/NRおよびWLAN/Wi-Fi等)
36 Seriesと38 Seriesは、特許業務の中でも頻出のSeriesですので、次の章で詳細に説明します。
なお、23 Seriesでは、TS 23.401に4G/LTEのシステムの概要が記載され、TS 23.501およびTS 23.502に5G/NRのシステムの概要が記載されています。
その他
特許業務に関わっている中では上述したSeriesと比べると見かける頻度は少ないと思いますが、その他にも、システムの要件を定義する21 Seriesや、特定のテーマ(コーデック、OAM、セキュリティ等)にフォーカスした26-28, 30-35 Seriesがあります。
また、厳密には第2世代であるGSMについての他のSeries(01~12, 41~55)も存在するのですが、それらを見る機会はほとんどないと思いますので、とりあえずは気にする必要はないでしょう。
なお、3GPPのウェブサイトでもSeriesの全体像が示されていますので、ご興味ある方は以下のリンクからアクセスしてみてください。
36 series & 38 series

上述したように、36 Series は4G/LTEのRANについてのSeriesであり、38 Seriesは5G/NRのRANについてのSeriesです。
これらのSeriesには多数の3GPP TSが含まれていますが、ここではその中でもよく見かけるものにフォーカスして説明します。
なお、3GPPのシステムにおけるインターフェースとプロトコルの知識があれば、以下の説明をより容易に理解できると思いますので、ご興味がある方は下記の記事を先に読んでみてください。


36 Seriesと38 Seriesの共通点
36 Seriesと38 Seriesは、4G/LTEと5G/NRという違いはあるものの、Series内では同様の位置づけの3GPP TSに同様のSeries内番号が付されています。

まず、Series内の300番のTSは、SeriesにおけるOverall descriptionのTSであり、Stage 2に対応するものです。
Series内の330番台(33X)、320番台(32X)および210番台(21X)のTSは、UEとRANの基地局との間のインターフェース(Uu)のプロトコルのTSであり、レイヤ3(L3)、レイヤ2(L2)およびレイヤ1(L1)にそれぞれ対応しています。
Series内の410番台のTSは、RANの基地局とコアネットワーク(CN)のノードとの間のインターフェースのプロトコルのTSです。とりわけ、413番のTSには、当該インターフェースにおける制御の手続きが規定されています。
Series内の420番台は、RANの基地局間のインターフェースのプロトコルのTSです。とりわけ、423番のTSには、当該インターフェースにおける制御の手続きが規定されています。
36 Series(4G/LTE)
4G/LTEの36 Seriesについては、以下のようにTSの番号が付されています。

TS 36.300は、36 SeriesにおけるOverall descriptionのTSです。
TS 36.33X、TS 36.32XおよびTS 36.21XのTSは、UEとE-URANのeNBとの間のインターフェース(Uu)のプロトコルのTSであり、L3、L2およびL1にそれぞれ対応しています。具体的には、以下のような3GPP TSがあります。

L3のTSとして、RRCのTS 36.331があります。
L2のTSとして、PDCPのTS 36.323、RLCのTS 36.322、および、MACのTS 36.321があります。
L1(PHY)のTSとして、上段の処理のTS 36.212、および、下段の処理のTS 36.211があります。さらに、procedureのTS 36.213、measurementのTS 36.214、および、RelayのTS 36.216もあります。
TS 36.41Xは、E-UTRANのeNBとEPCのMMEとの間のS1インターフェースのプロトコルのTSです。とりわけ、TS 36.413番のTSには、S1インターフェースにおける制御の手続きが規定されています。
TS 36.42Xは、E-UTRANのeNB間のX2インターフェースのプロトコルのTSです。とりわけ、TS 36.423には、X2インターフェースにおける制御の手続きが規定されています。
38 Series(5G/NR)
5G/NRの38 Seriesについては、以下のようにTSの番号が付されています。

TS 38.300は、38 SeriesにおけるOverall descriptionのTSです。
TS 38.33X、TS 38.32XおよびTS 38.21XのTSは、UEとNG-RANのgNBとの間のインターフェース(Uu)のプロトコルのTSであり、L3、L2およびL1にそれぞれ対応しています。具体的には、以下のような3GPP TSがあります。

L3のTSとして、RRCのTS 38.331があります。
L2のTSとして、PDCPのTS 38.323、RLCのTS 38.322、および、MACのTS 38.321があります。
L1(PHY)のTSとして、上段の処理のTS 38.212、および、下段の処理のTS 38.211があります。さらに、制御チャネル関連のprocedureのTS 38.213、データチャネル関連のprocedureのTS 38.214、および、measurementのTS 38.215もあります。
TS 38.41Xは、NG-RANのgNBと5GCのAMFとの間のNGインターフェースのプロトコルのTSです。とりわけ、TS 38.413番のTSには、NGインターフェースにおける制御の手続きが規定されています。
TS 38.42Xは、NG-RANのgNB間のXnインターフェースのプロトコルのTSです。とりわけ、TS 38.423には、Xnインターフェースにおける制御の手続きが規定されています。
Technical Specification (TS)とTechinical Report (TR)

各Seriesには、3GPP TS (Technical Specification)だけではなく、3GPP TR (Technical Report)も含まれています。
TSは、3GPPのシステムにおいて準拠すべき技術の仕様が記載されたものですが、 TRは、TSの作成に先駆けて行われた技術の調査や検討の結果が参考情報として記載されたものです。
各Seriesでは、一部の例外を除き、前の方の番号にTSがあり、後ろの方の番号にTRがあります。

例えば、23 Seriesでは、Series内の番号が100番台~600番台のものがTSであり、700番台~900番台のものはTRです。
例えば、36 Seriesや38 Seriesでは、Series内の番号が100番台~500番台のものがTSであり、700番台~900番台のものはTRです。
3GPP TSのRelease
第1回の記事でも説明したように、3GPP TSの検討・作成は、Releaseと呼ばれる機能のパッケージの単位で進められていきます。
基本的には、新しいReleaseは古いReleaseの機能を含み、後方互換性 (backward compatibility) が確保されています。

3GPPのReleaseはRelease 99からはじまり、このReleaseから3Gの技術が仕様化が開始されました。
4G/LTEは、Release 8から導入されました。そのため、4G/LTEのRANについての36 Seriesでは、TSのバージョン番号は、V8.0.0からはじまっています。
5G/NRは、Release 15から導入されました。そのため、5G/NRのRANについての38 Seriesでは、TSのバージョン番号は、V15.0.0からはじまっています。
まとめ
3GPP TSのSeries
3GPP TSは、3G以降の技術について21~38の番号が付されたSeriesで分類されています。
- 21 Series:システムの要件
- 22 Series:サービス要件を検討するStage 1に主に対応
- 23 Series:システムのアーキテクチャや機能を検討するStage 2に主に対応
- 24, 29 Series & 25, 36, 37, 38 Series:実装のための詳細を検討するStage 3に主に対応
- 26-28, 30-35 Series:特定のテーマ(コーデック、OAM、セキュリティ等)
24 Series, 29 Seriesは、CNに関するシグナリングプロトコルについてのTSのSeriesです。
25 Series, 36 Series, 38 Seriesは、それぞれ3G, 4G/LTE, 5G/NRのRANについてのTSののSeriesです。
36 Series & 38 Series
36 Series(4G/LTE)および38 Series(5G/NR)では、以下のように同様の位置づけのTSに同様のSeries内番号が付されています。
- 300番:Overall description(Stage 2に対応)
- 330番台(33X):UEと基地局との間のインターフェースにおけるレイヤ3(L3)のプロトコル
- 320番台(32X):UEと基地局との間のインターフェースにおけるレイヤ2(L2)のプロトコル
- 210番台(21X):UEと基地局との間のインターフェースにおけるレイヤ1(L1)のプロトコル
- 410番台(41X):基地局とCNノードとの間のインターフェースのプロトコル
- 420番台(42X):基地局間のインターフェースのプロトコル
TSとTR
各Seriesには、TS (準拠すべき技術の仕様が記載されたもの)だけではなく、TR(技術の調査や検討の結果が参考情報として記載されたもの)も含まれています。
各Seriesでは、前の方の番号にTSがあり、後ろの方の番号にTRがあります。
3GPP TSのRelease
3GPP TSの検討・作成は、Releaseと呼ばれる機能のパッケージの単位で進められていきます。
基本的には、新しいReleaseは古いReleaseの機能を含み、後方互換性 が確保されています。
3GPPのReleaseはRelease 99から3Gの技術が仕様化が開始され、Release 8から4G/LTEが導入され、Release 15から5G/NRが導入されました。

