- 「該当する仕様(TS)を確認して」と言われたものの、そもそもどこからダウンロードすればいいのか分からない。
- 3GPPの公式サイトを開いてはみたけれど、目的のTSにどうやってたどり着けばいいのか、画面が複雑で迷ってしまう。
- 無料で入手できるらしいけど、Word版やPDF版があるみたいで、結局どれをどう取ればいいんだろう…
知財担当者として5G/4G/LTEを担当することになると、避けて通れないのが「3GPPの技術仕様(Technical Specification: TS)を自分で読む」という作業です。
しかし、いざ実務に入ると次の壁にぶつかります。「で、その仕様(TS)は結局どこで、どうやって手に入れるのか?」
私はこれまで10年以上にわたって移動体通信特許の権利化や係争の支援に携わってきましたが、とりわけ標準必須特許(standard essential patent: SEP)の案件では、特許が標準仕様にとって本当に必須なのかを、技術仕様(TS)と照らし合わせて検討します。そのため、SEPの案件は、たいてい「該当する技術仕様(TS)の正しいバージョンを手元に用意する」ところから始まります。
そこで、この記事では、3GPP TSの入手方法を実際の画面を参照しながら説明します。
この記事を読めば、3GPP TSを簡単に入手できるようになります。幸いなことに、3GPPの技術仕様(TS)は誰でも・無料で・登録不要でダウンロードできます。
なお、前提知識として3GPP TSの番号体系・Series・Releaseといった「3GPP TSの全体像」を知りたいという方は、以下の第2回の記事を読んでみてください。

3GPP TSはどこにあるのか

3GPPのTS (Technical Specification)およびTR (Technical Report)は、3GPPの公式サイト 3gpp.org から入手します。会員登録もログインも不要で、誰でも無料でダウンロードできます。市販の規格のように購入する必要はありません。
ポイントは、3GPPサイトでは、3GPP TSそのものが直接トップに並んでいるわけではなく、Series → 個別のTS → version という順にたどっていく構造になっていることです。前回学んだ番号体系が、ここでそのまま道案内として効いてきます。
入手の前に決めておく2つのこと

画面に入る前に、自分が「何を」取りに行くのかを2つの軸で決めておくと迷いません。
- ① 仕様番号
例:TS 38.300。前半の数字がSeries(38 = 5G/NRのRAN、36 = 4G/LTEのRAN)、後半が個別の通し番号です。Series番号の意味は前回の第2回で解説しました。
- ② version
例:19.2.0。3GPPのTSは改訂のたびにversionが積み上がります。version番号は 3つの数字 で表され、おおまかに次の意味を持ちます。
- 1つ目(例:
19)… 対応するRelease番号(Release 19) - 2つ目(例:
2)… 機能・技術的な変更が入った回数 - 3つ目(例:
0)… 誤記訂正など編集上の修正の回数
特許実務では、この version選び が地味に重要です。詳しくは後半の「どのversionを入手すべきか」で触れます。
3GPP公式サイトからの入手手順

ここからは、4ステップで、3GPPの技術仕様(TS)のWordファイルを入手します。クリックすべき箇所を赤枠で示しています。
なお、ここでは一例として、5G/NRの代表的な技術仕様(TS)である TS 38.300のversion 19.2.0 を入手する流れを示します。
Step 1 Series一覧のページを開く
3GPP公式サイト(3gpp.org)のトップページで、上部メニューの 「Specifications & Technologies」 にカーソルを合わせると、メニューが開きます。その中の 「Specifications by series」 をクリックします。

▲ 画面1:トップページのメニューから「Specifications by series」を開く
Step 2 Seriesを選ぶ
Seriesの一覧表が表示されます。左の列が各Seriesのテーマ、右側の列に対応するSeries番号が並んでいます。今回の例では、 TS 38.300(すなわち、38 seriesのTS)を入手したいので、「Radio technology beyond LTE」の行にある「38 series」 をクリックします。

▲ 画面2:テーマ別のSeries一覧。5G/NRのRANなら38 series、4G/LTEのRANなら36 series
Step 3 目的のTSを見つけ、version一覧を開く
選んだSeriesに属するTSの一覧が表示されます。一覧では、技術仕様(TS)が番号順に並んでいますので、入手したい技術仕様(TS)の番号(今回の例では、38.300)を探します。ここで、上部の検索欄(「Title/Specification number」)に番号を入れて絞り込むこともできます。番号を見つけたら、その番号の行の右の方にある 眼鏡マークのアイコン をクリックすると、その番号のTSのversion一覧のページに移動します。

▲ 画面3:TS一覧。目的のTSの行の眼鏡マークをクリックする
Step 4 versionを選んでWordファイルをダウンロード
上部にある4つのタブのうち「Versions」のタブをクリックすると、そのTSが持つversionの一覧が、Releaseごとにまとまって表示されます。どの会合(RAN#〇〇)で、いつ(Upload date)、どのversionが発行されたかが分かります。
入手したい versionの番号(例:19.2.0)をクリックすると、そのversionのTSのWordファイルが圧縮された状態でダウンロード されます。解凍すると中にWord文書が入っています。

▲ 画面4:version一覧。番号をクリックでWord版をダウンロード
これで、目的の技術仕様(TS)を手元のPCで開けるようになりました。
+α PDFで欲しいとき(ETSI版)
3GPPの技術仕様(TS)は、欧州の標準化機関 ETSI からも、同じ内容で発行されています。
ETSIからはPDFファイルを入手できます。そのため、「Wordではなく、レイアウトの崩れないPDFで読みたい・印刷したい・証拠として保管したい」という場合は、こちらが便利です。また、分量の多いTSの場合、Wordファイルの表示や印刷の処理が非常に重くなり、所望の箇所を表示/印刷するのに多大な時間がかかるため、PDFファイルが重宝される機会があります。
version一覧の各行の右側には、「ETSI」ボタン が用意されています。これをクリックすると、ETSI側の同じversionのページに移動します。

▲ 画面5:同じversion一覧の「ETSI」ボタンをクリックするとETSIへ移動する
ETSIのページでは、右上の 「Download Standard」 の枠内にあるPDFのアイコンをクリックすると、そのversionのPDFファイルをダウンロードできます。

▲ 画面6:ETSIのページ。「Download Standard」からPDFを入手できる
ETSIでの仕様番号は、3GPPの番号の先頭に「1」を付けた形 になります。例えば 3GPPの TS 38.300 は、ETSIでは ETSI TS 138 300 と表記されます。番号が違って見えても中身は同じものなので、戸惑わないようにしてください。
なお、3GPPとETSIの関係にご興味がある方は、以下の第1回の記事を読んでみてください。

どのversionを入手すべきか

最後に、特許実務の観点から、どのversionを入手すべきかを簡単に説明します。
とりあえず最新versionを入手すればよいと思われるかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。状況に応じた最適なversionを入手することが重要です。
自社の特許のケース
例えば、自社の特許(または特許出願)の発明が3GPP TSの技術に合致しているかを調べる場合、基本的には、最新のversion(すなわち、最新のReleaseにおける最新のversion)を入手します。なぜならば、基本的にはversionが上がるたびにTSの記載が充実していくので、最新のversionが最も包括的に技術を網羅しているからです。なお、発明に対応する技術テーマが特定のReleaseで導入されたことを認識できている場合には、最新のReleaseの代わりに当該特定のReleaseにおける最新のversionを入手してもかまいません。
一方、自社の特許(または特許出願)の発明が3GPP TSの技術に合致しており、クレームチャートを作成する場合、当該技術が3GPP TSに導入されたRelease(すなわち、当該技術を含む最も古いRelease)における最新versionを入手します。例えば、当該技術がRelease 17にて導入されたならば、Release 17における最新versionを入手します。なぜならば、発明が、より古いReleaseの技術に合致するほど、当該発明の特許は、より古い製品にも及ぶため、クレームチャートでは、より古いReleaseの技術をクレームに対応づけたほうが良いからです。
他社の特許のケース
例えば、他社の特許についてのライセンス交渉を持ち掛けられ、当該特許の発明と3GPP TSの技術との対応関係を示すクレームチャートが提供される場合、当該クレームチャートを参照しながら当該発明が3GPP TSの技術に合致しているかを確認します。そのために、まずはクレームチャートに記載された3GPP TSのversionを入手します。
なお、クレームチャートに記載された上記versionがそのReleaseにおける最新のversionではない場合、クレームチャートに記載された上記versionと同じReleaseの最新のversionも入手します。なぜならば、稀にですが、当該ReleaseのTSがversion更新でブラッシュアップされていった結果、クレームチャートに記載された上記versionでの記載が同じReleaseの最新のversionでは変更されてしまっている可能性もあるからです。
一方、他社の特許の無効を主張するための材料として3GPP TSを用いる場合、基本的には、当該特許の出願日(優先権主張がある場合には優先日)より前に公開されているversionのうち最新のものを入手します。TSのversionがいつ公開されたかは、上述したTSの一覧における「Upload date」で確認することができます。なお、無効の主張に必要な材料が記載されているのであれば、必ずしも出願日(優先日)前における最新のversionでなくても問題ありません。
まとめ
3GPPの技術仕様(TS)は、3GPPの公式サイト 3gpp.org から無料・登録不要で入手できます。
入手手順は、 Series → 個別のTS → version の順にたどるだけです。先に①仕様番号と②versionを決めておくと迷わずにすみます。
Word版は3GPPから入手することができ、PDF版はETSIから入手することができます。なお、ETSI版の番号は3GPP版の番号の頭に「1」が付きます。
特許実務では、とりあえず最新のversionを入手するというのではなく、状況に応じた最適なversionを入手することが重要です。
以上、第3回として、3GPP TSの入手方法を説明しました。
第4回以降では、3GPPにおける技術検討について詳しく説明していきます。

